2016年04月22日

池上 英洋氏の西洋美術史入門


芸術と芸術批評  フリートレンダー.JPG

 先日取り上げた
   「失われた名画」の展覧会( 2016/3/24)
     池上 英洋
       http://www.amazon.co.jp/dp/4479392866
の筆者に、西洋美術史入門という本があることを知りました。美術史入門というものを書くことの難しさを痛感している者として、是非読んでみたいと思って「借りてきて」通読いたしました(用語集部分はまだ読んでいません

西洋美術史入門 (ちくまプリマー新書) 新書  – 2012/2

西洋美術史入門・実践編 (ちくまプリマー新書)  – 2014/3/5

  良い本ですが、なんか違うなーという感じがしています。
  最初の本ではイコノグラフィー(図像学)とイコノロジー(図像解釈学)が美術史の本体だといってますが、これは「池上 英洋の美術史」の本体なんじゃないかな。あまりに狭い。
 イコノグラフィーとイコノロジーは美術史の道具としては重要な手法・学問ですが、それだけが美術史の本体ではない。というのもイコノグラフィーとイコノロジーなら、そもそも美術品を対象にする必然性がないのです。私が書いた落書きでも、路上の看板でもTVのCMでも,ローマ時代の春画でも、なんでもイコノグラフィーとイコノロジーの対象になります。
 例えば、最近、重力波が話題になった物理学の一般相対性理論をやるときは微分幾何学の知識がないと一歩も進めませんが、微分幾何学は道具であって一般相対性理論ではありません。そういう違いがあるように思います。
  ただ、イコノグラフィーとイコノロジーは、美術館でトークをやったり講演をやったりするときはとても役に立ち説得力がある道具なのです。この絵はなにを描いているのか、この植物は何を意味するのか、絵の背景にはどういう当時の時代背景があるのか、こういうことを喋れば説得力のある良い講演になりやすいのです。この本は講義録をもとにしているように思いますが、大学の講義でもイコノグラフィーとイコノロジーを講義するほうが首尾一貫して楽でしょう。しかしそれば「美術史」を教えているといえるのでしょうか?羊頭狗肉ではないかと思います。また体裁の良い分厚い論文や本を書くのも楽です。 イコノグラフィーとイコノロジーは米国の碩学アーウィン=パノフスキーが美術史のメインに据えて以来、流行しておりますが、果たしてパノフスキー流のやりかたが良いのかどうかは甚だ疑問に思っています。美術史学者の仕事はトークや講演だけなんでしょうかね。

  2冊目の本は個々の事例で語っているので、当然ながら、イコノグラフィーとイコノロジーでは収まらず、様々な問題、修復の問題などにも及んで良い本だと思いました。
この2册、当然、誤りは多いので、正誤表のメモ紙をを多数はさみながら読んでいますが、意欲作だと思います。
 当方としては2冊目だけでもよかったな。

 当方の美術史に関する考え方は、マックス=ヤコブ=フリートレンダーに近いものです。
フリートレンダーの著書(イメージ)
『芸術と芸術批評』, マックス・フリートレンダー(千足伸行訳), 岩崎美術社, 1968
の目次は、

“見る”ということ
存在、仮象、事物に対する興味
芸術と象徴
形体、色彩、色調、光、金色
絵画的なもの
作品の規模、近景と遠景
線遠近法について
運動について
写実性、芸術的価値
様式
個別と類型について
美について
構図について
絵画のジャンルについて
宗教画と世俗画について
裸体画について
風景画について
肖像画について
静物画について
芸術家、天才、才能
芸術と学問
観る人の立場について
作者を決定することの意義
作者決定の客観的証拠
直感と第一印象
目ききについて
絵画の分析的研究
写真の利用について
個性とその発展について
無名の、或いは23流の画家について
デッサンの研究
影響について
作品の質、および原作と模作
模作からさかのぼって原作を推定することについて
工房での共同制作
偽作について
修復について
美術文献について
  この中でイコノグラフィーとイコノロジーが占める部分は大きいものではありません。
この本『芸術と芸術批評』は、翻訳のせいもあるのか、池上さんの2册よりも遙かに読みにくい錯雑した本ですが、やはり美術史というのは一筋縄ではいかないものじゃないかと思います。
 単純化するのも善し悪しじゃないでしょうか。


posted by 山科玲児 at 09:16| Comment(0) | 日記