2017年07月09日

ボイマンス展 ブリューゲルの版画

ブリューゲル版画展 1972.jpg


 
ボイマンス展は大阪 中之島で 開催されるようです。東京よりは空いてるかなあ。
ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展
        公式サイト http://babel2017.jp/
   2017年7月18日(火)〜10月15日(日)大阪   国立国際美術館
前、書いたように6月23日に都美術館で鑑賞したときには版画を観るのに力尽きてしまいました。

  >ブリューゲルの版画も、よい刷りのものが並んでいたが、ひとつひとつ観ていくと疲れはててしまうので途中でドロップアウトした。

  ただ、今回のボイマンスの展示は過去三回のブリューゲル版画展とは、大きく違うところがあります。

1972年: 神奈川近代美術館でのブリューゲル版画展(イメージ)
1989年; ブリヂストン美術館など  ピーテル・ブリューゲル全版画展
2010年:  Bunkamuraザ・ミュージアム 「ブリューゲル版画の世界展」
のいずれも全てが  ブリュッセルのベルギー王室図書館コレクションなんです。
つまり、三回とも皆、同じ版画です。版画は絵とは違って同じものが複数ありますし、同じ版画でも初刷り、後刷り、改変、改版などがあるのは。浮世絵と同じです。北斎の「赤富士」も2種類はあるのはご存じでしょう。春信の座敷八景でも二種以上あります。
  勿論、ベルギー王室図書館コレクションは優れたものですし、ブリューゲル版画のカタログレゾネの基礎になるほど網羅的でもあるのですが、それでも三回とも同じもの、、というのは何か芸がないような気もします。

 このロッテルダム  ボイマンス美術館は、ベルリンKuiperKabinettやウイーン=アルベルティーナの版画素描コレクションとともに優れた版画コレクションをもっています。 ここのブリューゲル版画は刷り・質ともに優秀です。ブリュッセルのものとは違ったブリューゲル版画をある程度まとめてみる絶好の機会でしたが、力尽きてしまいました。
 今回、展示されたのは22点ですが、ブリューゲルが下絵を描いて出版した版画76点のうち22点ですから結構多いんですよ。ただ、ブリューゲルの油絵なんかを版画にしたものもあるのでそういうものをあわせるとカタログレゾネには95点が入っています。それでも全体の1/5以上です。 有名な版画の多くが展示されているといっていいでしょう。


 体力のある西日本の方々は、「ああまた、ブリューゲル版画か」と思わずにがんばって鑑賞されることをお勧めします。

posted by 山科玲児 at 10:58| Comment(0) | 日記

ハングル使用の歴史への誤解

論語オン解 c1570s.JPG論語オン解 c1570s ss.jpg


 
  大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国で主に使われている文字:ハングルについて、ときどき明白な誤謬が語られることがあります。
 「李氏朝鮮時代にはハングルは卑しい文字として蔑まれ禁止されてきた。両班(支配階級 知識階級)は使わなかった。」
  「日本が忘れられ埋もれていたハングルを発掘し普及させた。」

  有名人が平気でこういう主張をされているのを聴くたびに、困ったことだ、もう少し調べて話せばいいのに、と心を痛めております。「日本が言葉を奪った」とかいう韓国側の奇説に対抗するために先鋭化したんでしょうが、よいことではありません。

どうも、こういう主張のソースは1894年前後のイザベラ=バードの記述から拡大解釈したのじゃないかと、私は推測しています。
イザベラ=バード:朝鮮紀行 序章
> 朝鮮の言語は二言語が入り混じっている。知識階級は会話のなかに漢語を極力まじえ、いささかでも重要な文書は漢語で記される。とはいえそれは1000年も昔の古い漢語であって、現在清で話されている言語とは発音がまるで異なっている。朝鮮文字である諺文〈オンムン〉[ハングル]は、教養とは漢籍から得られるもののみとする知識層から、まったく蔑視されている。朝鮮語は東アジアで唯一、独自の文字を持つ言語である点が特色である。もともと諺文は女性、子供、無学な者のみに用いられていたが、1895年1月、それまで数百年にわたって漢文で書かれていた官報に漢文と諺文のまじったものがあらわれ、新しい門出となった。これは重要な部分を漢字であらわしそれをかなでつなぐ日本の文章の書き方と似ている。(講談社学術文庫 序章 p.32-33)

これと、1504−6年のハングル禁止の史実がくっついて、十六世紀〜十九世紀までハングルが使われていなかった、という妙な誤解になってしまったのではないかと思っています。

  ところが、李氏朝鮮の活字本には、結構ハングル入りの本、ハングルだけの本があるので、これはおかしいと思っておりました。李氏朝鮮のハングル禁止は燕山君の1504年のことだというのですが、その60年後 1570年代ごろにはハングル入り活字本 「論語諺解」(イメージ、右に部分拡大)がでています。こういう本読むのは両班で、庶民じゃないでしょ。日本の江戸時代の黄表紙本なんかじゃないのです。つまり十六世紀末の両班はハングルを読んでいた使っていたということです。ハングル禁止は無効になっていたようですね。
  バードのころ、1894年前後の事情とその400年近く前とはかなり違うんじゃないですかね。ハングル発明以後450年の間かなり使い方や評価が変わって2転3転したんじゃないですかね。

もっとも、バードの本でも、
> 私の観察したところでは、漢江沿いに住む下層階級の男たちの大部分はこの国固有の文字が読める。
(講談社学術文庫 第6章  p.111)
> 上流階級の女性は朝鮮固有の文字が読めるものの、読み書きの出来る朝鮮女性は1000人に一人と推定されている。
(講談社学術文庫 第29章 p.439)
だから、男性には普及していたが、女性には文盲が多かったのは事実のようですね。


李氏朝鮮の活字本ってのは基本的には、次のような出版事情で、中央官庁出版、官版、官報、国定教科書みたいなものなんですね

千恵鳳, 韓国古印刷文化,「韓国古印刷文化展」, 1984,
大韓民国文化公報部海外公報館
によると、
「わが国は領土がせまく、学問人口が限定され、同種類の本を大量に印刷して発行するよりは、必要な書物を随時に印刷してだすのが望ましいことであった。中央の書籍院または鋳字所で必要な本を活字で多様に印刷し、内賜の形式で一次的に普及し、その中大きく、そして間断なく要求されるのは、中央ならびに、地方の役所などで、さらに、木版で翻刻または、重刻して、その版本*を保存しながら、長期的流通に対備する、わが国の印書政策であった。」
*版本ー>版木の間違いか?

したがって、活字本は、本当に両班の上流部分が読んでいたものでしょ。この「論語諺解」はハングルで読み方発音を教えるものです。また多少の注釈が「漢字(ハングル  ルビつき)+ハングルだけの文」で入っています。発音記号としてまず発明開発されたのは「訓民正音」という名前が直接に示すとおりです。なんとなく日本のカタカナの使い方に似ています。禁止後約270年1778年に出た続明義録(下イメージ)は、全文ハングルですしね。これは下賜本だったようです。

続明義録  1778  ss.jpgショウ解新語 1676 ss.jpg

また、1676年には、日本語の解説本でひらがなにハングルで音を示した本もでております。「ショウ解新語」(上右に部分拡大)。


ハングルの使用方法と評価が400年以上の間に2転3転したということになると、バードの記述も別の意味がでてきます。
>もともと諺文は女性、子供、無学な者のみに用いられていたが、
というのは、本来、両班の上流が使っていた発音記号だったものが、400年の間に、「女性、子供、無学な者」に文字としてある程度は少しは普及したということで、これは良いことではないか、と思うところなんですね。
>知識層から、まったく蔑視されている。
というのも1890年代にたまたまそうだったということで、時代を遡ればそうではなかった、ということになります。

だから、変な説を吹聴するのは止めたほうがいいと思いますね。

イメージソースは全て:千恵鳳, 韓国古印刷文化,「韓国古印刷文化展」, 1984, 大韓民国文化公報部海外公報館


posted by 山科玲児 at 10:06| Comment(3) | 日記

グラフの嘘

識字率グラフ.jpg識字率  朝鮮人1930  男.jpg



 グラフによる巧妙な虚偽で、つい騙されてしまうことがあります。
 大阪維新の会が大坂都構想宣伝に使ったグラフもひどかったのですが、なんかグラフで図示されると正しいように勘違いしてしまうんですね。


 最近みた1例が、これです。


  近代教育と識字率:データで見る植民地朝鮮史
  http://www.wayto1945.sakura.ne.jp/KOR10-literacy.html


 GoogleやExciteで「朝鮮+識字率」で検索すると、現時点では最初か数番目に表示されるサイトなので、警鐘を鳴らしたいと思います。


このグラフ(イメージ)が問題なんですね。
一次資料を使っていると称していて、その一次資料が次の公式の出版物なんです。


朝鮮国勢調査報告. 昭和5年 全鮮編 第1卷 結果表
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1448143
この70コマに該当データがあります。


 一次資料の朝鮮国勢調査報告のなかで、上のグラフのもとになるデータを画像で右/横においておきます。
 グラフと違って、60歳以上は「60歳以上」とまとまっていて、70代、80代の分類なんか最初からないんですね。ないものをグラフにすることはできません。
さらにですよ、20歳〜59歳までの年齢層わけは、
20−24
25−39
40−59
という分け方です。
つまり、この一次データから、このグラフの、
20−29
30−39
40−49
50−59
に分けたグラフを作ることは不可能です。
つまり上記グラフの赤線で囲った部分は皆嘘だということです。
一次資料の表みればすぐわかることなんですがね。。。



このサイトの著者は、下の2つのどちらかでしょう。。


@  知っていて、グラフを作った
  この場合は、
   一次資料を読む奴なんかいないと読者を馬鹿にしきってるんでしょうね。
  それらしいグラフをつくれば読者を騙せると思っているのでしょう。
  実際、確かに、国会図書館デジタルコレクションのデータは読みにくいので、読む奴はいないだろうとおもったんでしょうねえ。


A  グラフを他からもってきて、そのときついていた一次資料と比較検査しないで書いただけ。
  この場合は、軽信・軽率・無責任です。


@Aのどちらにせよ、仮に同じ結論がでるとしてもこのサイトの著者は信頼できないということになります。

上のグラフ 数字もおかしいようですね。男の識字率も20代30代40代50代なら85%〜90%ぐらいにみえますけどね。このグラフじゃ60%ぐらい。どういう数字操作すりゃこうなるんでしょうね。。ひどいものです。
もっとも、ここではあげなかったのですが、上記の一次資料みりゃわかるんですが、女性の識字率は確かに非常に低い10%程度です。



posted by 山科玲児 at 09:45| Comment(0) | 日記