2021年01月15日

ラトゥール「女占い師」の贋作疑惑

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  メトロポリタンのラトゥールの贋作疑惑を、なんで知ったのかな、と思い出してみたら、
ホーヴィングの「にせもの美術史」だった。再読してみた。購入時点は、ホーヴィングが館長だったときではないが、既にメトロで働いていたころだったし、論争は館長時代にまで長く続いたので、細かく書いてある。

  1960年に、メトロポリタンが払った金額は50万ドルだった。これは、前に述べた、ウィルデンシュタイン画廊が所有者に払った750万フラン(2〜5万ドル?)とはかけ離れているようだが、10年ほど経っており、その間に世界では貨幣価値が大きく変わり、日本でもひどいインフレがあった。フランスでは1/100のデノミネーションまで起こっているので、一慨に画廊の暴利とはいいがたい。。

左上のジプシーのショールの間に「糞」(MERDE)と書いてあったことが贋作の証拠ともいわれていたが、どうも画廊で修復をやった修復家のいたずららしい。「糞」(MERDE)と書いた修復家は、ニューヨークで1958年に修復していたアルバート・ディオンであり、ディオン自身の創作作品にはスカトロジックな文字やイメージがいっぱいだったそうである(ホーヴィング)。 この文字は1980年ごろにメトロポリタン美術館によって消去された(下イメージは、消去前の写真)。 それ以外にも文字はあり、若者がかけている懐中時計??メダイヨン??の鎖にFIDES(忠誠)  AMOR(愛)が書いてあるそうだ。拡大してみたが、かろうじてみえるぐらいである。

 また、占い師の服の柄がWalker Art Gallery のJoos  van Cleveの絵からとったものだという疑惑も提起された(下イメージはそのvan cleve画の一部)。服がおかしく、着ることができない、というクレームもあったらしい。左のジプシー2人の間の手がおかしいという主張もあるらしい。ただ私が思うにはラトゥールの手や指はだいたい不自然であり、レオナルド・ダ・ヴィンチなら叱責したんじゃないかと思うくらい解剖学的にはおかしいことが多い。

  ホーヴィングは、原画の破損が大きく、修復がかなり大きな部分になったためにおかしな点ができたのではないかと推測している。

  ホーヴィングの本以外の資料では、
   1972年 パリ  グランパレのカタログでは、1946年9月に最初にこの絵を発見し、1948-49年てルーブルに報せた人としてSolesmes修道院の  Laborde神父が特筆されているが、この人、その後の本には全くでてこない。なんか事情があったのだろう。。
  最近の研究では顔料などには問題がなく17世紀のもののようだ。また1997年に手紙が発見され、かなりカリグラフィックなサインをやっているようだから、この麗々しいサインも、注文者の意向だろうが、さしておかしくないだろう。ルイ13世との関係ができ「王の画家」のような名誉を得た後で、注文者がサインを要求したのではないかと思う。また、このサインに「リュネヴィルの」と書いてあることから地元の発注者ではなく、パリの注文主だったのではないか?あるいはラトゥールがパリにいたときに注文制作されたものではないか?と推定されている。同様な例としてクリヴェッリがマルケで制作していたが執拗に「ヴェネチア人」とサインしていた例もある。

 クリーニングや補筆はたぶんあったであろうが、 プラドで観て比較した経験では、いかさまカルタ2点(ルーブルとキンベル美術館)よりずっと優れた作品だと感じたものだ。できれば赤外線レフレクトグラフィー写真を観たいものだが、まだみつけていない。

  メトロポリタン美術館のサイトで特に面白いのは、REFERENCESである。ここは実に長文であり、贋作説については文献の主張を、簡潔ながらちゃんと記述していて、ここを読むだけで、論争のあらましを知ることができるくらいである。

https://www.metmuseum.org/art/collection/search/110001282

  merde  cuzan book  ss.jpgCleve Walker Latour.jpg
posted by 山科玲児 at 07:51| Comment(0) | 日記