2021年05月18日

高価な蜜蝋画

Berlin Mummyportrait Shone Madchen.jpg

ゲッテンス・スタウトの絵画材料事典(ref)で、蜜蝋のところを読んでいたら、古代の蜜蝋画が古代ギリシャローマで高価にとりひきされていたらしいことが書いてありました。
ある作品は60ターラント、別の作品には700万セステルティウス
あまり法外な数字なので、英語の翻訳間違いかと思ったがそうではありませんでした。
In Greece, itis said, pictures in wax commanded large  prices  in ancient  times: 60 talents(about$85,000) was offered   for one and 7,000,000 sesterses(about $400,000)  was paid for another
  ただ、引用文献がすでに間違っているという可能性はある。

  ローマ帝国時代の有力者が家来(クリエンテース)に毎日あげるお手当が10セステルテースだったというから、700万というのがいかに無茶な金額かわかります。元老院議員の資格が100万セステルティの財産だという時代のことです。

 これらは、いずれも法外な金額なので、一般の密蝋画ではなく、有名な画家の名作に支払われたものでしょう。21世紀の現在のオークションでに、レオナルド・ダヴィンチと称する絵に約500億円という値段がつき、話題になるようなものではないかと想像します。トルマルキオやネロが活躍したような、ローマ帝国時代のバブル的な価格が世人を驚かせ、逸話的に伝わったものではないでしょうか。確かに材料など高くついたのかもしれませんが、新作の蜜蝋画の値段としては、いくらなんでも高価過ぎる。蜜蝋画の衰退は、中心地だったアレクサンドリアがイスラムに落ちてしまったことが一番の原因だったと思います。

 ローマ帝国時代のパウサニウスによるギリシャ案内記によると、明確にそう書いてあるわけではないが、フレスコのように壁にじかに描いたものではなく、木板や金属板などなんらかのパネルに描かれた大きな絵が室内に収蔵されているらしい描写があります。
壁画は壁画で、別に壁に描くと書いてあるから、そうでないものには、パネル画があったようですね。

  また、皇帝ネロの時代の小説:サテリコンはごく一部分しか残っておりませんが、そのなかに、主人公達が絵画館を訪れる場面があります。なんと、一般人が観賞できる美術館が当時のローマ都市にはあったようです。まあ上流階級向けだったのかもしれませんが。当時、有名だった古代ギリシャの名画家たちの批評がでてくるのです。フェデリコ・フェッリーニの映画ではこれらの絵は、壁画を剥がしてきたもののように描かれていましたが、今考えると、蜜蝋画やテンペラのパネル画だったのではないか? と想像しております。

エジプトで発掘されたミイラ肖像画(イメージ  ベルリン美術館Berlin Inv. 31161.7" 2世紀)は、そういう大規模なマスターピースではないが技法的には同じ密蝋画で、多数発掘されてますので、出来のよいものをみて、ギリシャ・ローマ絵画の名作を想像することができるでしょう。

なお、現代日本では、蜜蝋を使った版画の一種も蜜蝋画と呼んでいるようで、はなはだ紛らわしい。用語の標準化が必要なように思っています。


ref. ラザフォード・J. ゲッテンス, ジョージ・L. スタウト,  絵画材料事典 ,  翻訳 森田恒之,  美術出版社, 1999
posted by 山科玲児 at 06:25| Comment(2) | 日記