2022年04月30日

Hirch コレクション

gaspard ferician Rops.jpg

 もともと古書籍オークションとして出発したサザビーズには、夜のガスパール1842年初版のオークション記録が2件あった。ただ、とても不思議なことに、どちらも、巻頭の余紙に、
1868年再版のとき、フェリシアン・ロップスが制作した版画(イメージ)が貼り込まれていたのだ。
これは、かなりおかしい。後の時代のものではないか??という疑念をおこさせるものである。
実際、最近、この1842年版の忠実な複製も近年制作されているようである。

2件ともそうなのは不思議なことだと思っていたが、2冊ともどうも同じコレクターのもとのところにあった本だというので、ある程度疑問が解けた。

Robert von Hirsch という人で、ドイツで鉄の売買、皮革事業で成功した実業家であり、ユダヤ系だったためスイス バーゼルに亡命した人だという。ヘルマン・ゲーリングにクラナッハの「パリスの審判」を渡して見逃してもらった人らしい。1978年にコレクションを売り立てている。ただ古書籍が入っていたかはよくわからない。
ニューヨークタイムズが記事にしていた。
  このときデューラーの水彩1点が呼び物だったそうで、山田智三郎:西洋美術館館長が芸術新潮のエッセイで「民間にある最後のデューラー水彩が市場にでた」と書いていたのは、このHirchのものだったんだなあ。。
posted by 山科玲児 at 20:50| Comment(0) | 日記

網師園の動画



  蘇州庭園のなかで、小型ながら明代の趣も少し残している名園:網師園の動画があった。
https://www.youtube.com/watch?v=yD_oV317mCI
  カメラワークや機材の使い方、質感表現は、欧米で訓練された人はうまいものだと思う。
  推薦。
  少しだが、他の庭園:拙政園の写真も併用しているので注意。
 この網師園、大画家にして贋作者だった張大千も滞在していたことがあり、そこで描いた絵を昔観たこともある。メトロポリタン美術館の中国庭園は、ここの一部を模範にしたものだが、あまりできはよくない。ポートランドには優れた日本庭園もあるし、中国庭園もある。

 こういう蘇州の庭園は、日本的な感覚では庭園というよりは邸宅といったほうがいい感じではある。
タグ:中国庭園
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2022年04月29日

ニコラ・ロランの息子



この絵で聖母子の背後右にいる寄進者は、枢機卿の服装をしている。ニコラ・ロランNicolas Rolin (1376–1462) の息子:ジャン・ロランJean (Jehan) Rolin (1408–1483) である。

 ニコラ・ロランという人物は、初期ネーデルランド絵画で、必ず名がでてくる、ブルゴーニュ公国の宰相をつとめた高官で、なにせヤン・ファン・アイクに自分の肖像を聖母子とほぼ同じ大きさで描かせた人である[ロランの聖母(ルーブル)]。また、ブルゴーニュのボーヌにあるロヒール・ファンデア・ワイデンの有名な最後の審判祭壇画の寄進者であり、外翼に、またも自分と妻の肖像を寄進者として描かせている。アラスの肖像素描集にもニコラ・ロランの肖像があるが、これは、ボーヌのものに近いようだ。

さて、このジャン・ロランの寄進者像は聖母と頭の高さがあまりかわらないようにみえる。しかし、実際は低いのだ。これは俯瞰的遠近法で描いているからで、遠いほうが高いところにおかれることになる。例えば、プラド美術館のヒエロニムス・ボス  東方三博士の礼拝:では遠くの軍勢や熊が聖母より高いところにあるが、だからといって、位階や尊貴の序列がひっくりかえっているわけではない。

 ただ、初期ネーデルランド絵画では、寄進者像が比較的大きく画面にでる傾向はあるだろう。
posted by 山科玲児 at 19:51| Comment(0) | 日記

マヤ・ブルー



 青色顔料というのは、なにかと話題になりやすい。同じくらい話題になるのは、貝紫や水銀朱ぐらいだろうか。
  マヤ・ブルーというのがある。宣伝文句やブランド名にもなるようなものである。、メソアメリカのマヤ文明の土器や壁画にみえる青い顔料で、異常に丈夫というかあの熱帯雨林で他の色がはげおちても残っているという代物である。
ゲッテンスのころは無機顔料かどうかで議論があったようだが、今はインディゴとPalygorskiteを煮たものだといわれているようである。
このPalygorskiteは奇妙な粘土鉱物らしくてこいつが重要な役割をしているようである。
https://en.wikipedia.org/wiki/Palygorskite

REf ラザフォード・J. ゲッテンス, ジョージ・L. スタウト,  絵画材料事典 ,  翻訳 森田恒之,  美術出版社, 1999
posted by 山科玲児 at 19:50| Comment(0) | 日記

夜のガスパールの自筆原稿

gaspard  autograph.jpg


 ルイ(雅号 アロイジウス)・ベルトランの詩集「夜のガスパール」
の自筆原稿が、1992年に再発見され、Biblioteque Nationaleに入ったということが(REF)に書いてあった。
Biblioteque Nationaleのサイトで探したら、やっぱりデジタルで公開されていたようだ。

「夜のガスパール」自筆原稿:
https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/btv1b10522569r/

ちょっと感激する。上イメージはその一部、冒頭のディジョン賛 の部分
そして、これみると、伊吹武彦先生の翻訳書に「『夜のガスパール』原稿の扉」という粗末な図版があったが、あれは、本物だったということがわかった。いったいどこでみつけたのかなあ?この下のページの写真図版を。
https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/btv1b10522569r/f13.item

初版本もおなじく、パリのBiblioteque Nationaleのサイトで閲覧できる。
https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/btv1b8600227w/f9.image



ref 宮崎茜、日本における『夜のガスパール』受容
https://www.waseda.jp/flas/glas/assets/uploads/2017/03/2017_miyazaki_231-244.pdf
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夜のガスパールの翻訳

夜のガスパール 伊吹.jpg



 ルイ(雅号 アロイジウス)・ベルトランの詩集「夜のガスパール」は、残念ながら、岩波文庫の翻訳で知られているらしい。

夜のガスパール〜ルイ・ベルトランの詩にもとづく幻想曲
https://www.asahi-net.or.jp/~qa8f-kik/Ravel/Analyze/07_Gaspard_de_la_Nuit/index.html
というサイトに書いてあるように、岩波文庫の翻訳はセンスがなく、詩集の翻訳としていかがなものかと思うような代物である。なお岩波文庫の翻訳者のかたは、「夜のガスパール」の書誌研究については優れた業績をあげた人のようで、フランスででたベルトラン全集の序文でも賞賛されているという(ref)。しかしこの翻訳はねえ、、とても読む気になれなかった。 
 上記サイトの方があげている名訳のサイトは今はなくリンク切れしてるのだが、
    えあ草紙・青空図書館  夜のガスパール抄
    https://www.satokazzz.com/books/bookinfo/55607.html
で読むことができる。確かに達意の名訳だ。岩波文庫とは天地ほども違う。岩波文庫の編集者はどうかしてると思う。

当方としては、全訳では、伊吹武彦先生の翻訳(イメージ)をおすすめしたい。
伊吹武彦 訳、青木書店、1939年、
平凡社の世界名詩集15巻にも収録されているが、序2+ユーゴーへの献辞+正編52+絞首台であり、省略されている。
 文庫でもとの翻訳を再版してもらえないかなあ。。

 だいたい、フランス詩の翻訳は、古くは上田敏、堀口大学をはじめとして粋な翻訳が多く、その伝統は生田耕作ぐらいまではあったが、現代では絶滅してしまったのだろうか。


 上記解説に使われた1842年初版の緑の表紙は当方がwikimediaにあげたものだが、そのあと色補正した。
 この初版本は20部ぐらいしか売れなかったという。しかし、刷った部数は約200部だというから(ref)、残り180部〜ぐらいはいわゆるゾッキ本、新古本として古本屋に安く売られたんだろうと思う。ボードレールやマラルメはそういうゾッキ本をパリで買ったものらしい。
  当方の蔵書にあるものは、珍しいことにもとの紙表紙が保存されている。フランスの本は、いわゆるフランス装でどんな高級な高価な本でも紙表紙で販売し、買った人が装丁をするという形になっているものが多い。

それで、この紙表紙は、失われ易いのである。下記のBiblioteque Nationale所蔵本にもこの表紙はついていない。そういうこともあるのでwikimediaにアップしておいた。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Gaspard_de_la_Nuit1842.JPG

内容のほうは、パリのBiblioteque Nationaleのサイトで閲覧できる。
https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/btv1b8600227w/f9.image



ref 宮崎茜、日本における『夜のガスパール』受容
https://www.waseda.jp/flas/glas/assets/uploads/2017/03/2017_miyazaki_231-244.pdf



 
 

posted by 山科玲児 at 08:58| Comment(0) | 日記

諏訪内晶子のヴァイオリン



J.S.Bach The Concerto for 2 Violins, Strings and Continuo in D Minor, BWV 1043
については、
何度も紹介しているように、パリのルーブルでの演奏:
Arabella Steinbacher & Akiko Suwanai - J. S. Bach : Concerto
https://youtu.be/leTVfMb2uME
  が「ヴァイオリンの格闘技」というべき名演奏である。
 この諏訪内晶子氏、近年、ヴァイオリンをこの動画のストラディヴァリウス「ドーファン」からグアルネリの「チャールズ・リード Charles READ」に替えたそうだ。それは、前のヴァイオリンの貸与契約が終了したためだという。当方はどっちかというとグアルネリのほうが音色としては好きなので、むしろ楽しみだ。
 その際のNHKラジオのインタビューが、ヴァイオリニストとヴァイオリンの関係を語っていて、興味深かったので紹介しておきたい。。

名器「チャールズ・リード」との衝撃的な出会い
https://www.nhk.or.jp/radio/magazine/article/radiru-lab/oGr80IW9yx.html

 この、チャールズ・リードというのは弦楽器の収集家として有名な人の名前だという。旧蔵者なのだろう。そして、現在の所有者・または所有法人代表は、日系米国人?  の製薬会社創業者社長で医師である上野氏のようだ。

Dr. Ryuji Ueno, M.D., Ph.D. and Ph.D
http://rueno.org/ueno.html
posted by 山科玲児 at 07:24| Comment(0) | 日記

2022年04月28日

夜のガスパール 演奏

2022年04月24日 ラベルの紹介動画

で、作曲家ラベルの優れた紹介動画
を紹介したのですが、当方がラヴェルに親しんだきっかけの一つの
ピアノ曲「夜のガスパール」の松本和将氏の優れた演奏がありました。
ただし4月30日までという限定公開となってはいますが、未だ視聴はできるようです。

なお、詩集「夜のガスパール」にはスカルボという詩が2つあります。それで混乱しがちなのですが、ラヴェルがとりあげたのは、正編のほうでなく、補遺のほうに入っているほうなんですね。
ここ間違えている人が非常に多い。





posted by 山科玲児 at 07:44| Comment(0) | 日記

BWV527 トリオソナタ二短調

Bach Helmut Walcha.jpg






 BGMで偶然 BWV527 トリオソナタ二短調 第一楽章アンダンテをヴァイオリン、チェロなどの三重奏でやっているのを聴いた。それほど良い演奏だとは思わなかったが、やはり印象深い名曲だと思った。

これの、トリオでの演奏の、YOUTUBEでの白眉は、
NEVERMINDのこれ
Bach - Andante BWV 527 by Nevermind
https://youtu.be/h72SGh3KAhY

だろう。これを聴くと、バッハが自作のトリオソナタ(おそらくケーテン時代の作)を長男フリードマンのためにペダル付きクラヴィーア用に編曲したと確信する。

  一方、原曲というか、オルガンでの演奏として、イメージにもあるヘルムート・ヴァルヒャのブレーメン近郊のカペルにあるシュニットガー・オルガンの演奏の音色が、とても良い。
オルガン 自体を紹介したサイトがあるようだ。まあ豪華なオルガンですねえ。
http://www.arp-schnitger-orgel-cappel.de/


鈴木 優人 Masato Suzuki氏もカペルのシュニットガー・オルガン演奏台にいったみたいだけど、弾いた音源公開されているのかな。
https://youtu.be/SgP6iVbZA1s
タグ:BWV527
posted by 山科玲児 at 07:22| Comment(0) | 日記

2022年04月27日

アズライトとラピス・ラズリ

lapis (2).JPG戦国青銅鏡鏡面のサビ アズライト.JPG



古い絵の青色顔料には、伝説的顔料がある。それが金より高いといわれる天然ウルトラマリンである。アフガニスタンのバグダシャンで採掘される宝石ラピスラズリ(左イメージが原石 当方撮影)を原料とする。
しかし、よく考えたら重量比で黄金より高いというものは、これに限るわけでもない。宝石でなくても高級な織物、貴重な薬物なんかも高そうである。

その天然ウルトラマリンだが、粉にするのだから、当然宝石にならない部分を使い、不純物をのぞいて作るわけである。そういう鉱石からは数パーセントしか採れないようだ。
高いから、原産地アフガニスタンの壁画なんかはともかく、西欧では、聖母の衣とか、重要部分にしか使わなかったようだ。

当然、もっと安い青色顔料を皆使っていたわけで、それが「岩群青」アズライトである。炭酸銅の一種で銅鉱山に孔雀石(マラカイト)とともに産出する。だからドイツや東欧でも採掘された。当然中国でも産出する。日本も昔は世界指折りの銅輸出国だったのだから当然産出しただろうとは思うが未だ調べていない。実は殷周の青銅器の錆も時にはアズライトになることがある。美しい青の錆はアズライトである。上右イメージは戦国時代末期の鏡の錆のアズライト(当方  撮影)。
ロシア民話の「石の花」にでてくるのが、このマラカイト・アズライトですね。
これも安くはないが、ラピス・ラズリに比べれば、けた違いに安いし、入手しやすい。アズライトを下地にして天然ウルトラマリンを上に少し使うという使い方もあったようだ。
 日本画・中国絵画の高級な青い顔料はだいたいこのアズライトである。
https://www.sankichi.com/SHOP/2500010271bcn_h.html
前あげた絵の具やさんのサイトだと、最上級でも15グラムで2200円  天然ウルトラマリンだと8Gで2万円以上だから  20分の1以下である。昔は輸送にもっとコストがかかっただろうからもっと価格差があっただろう。勿論、それ以外にも青色顔料はある。人工的な青色ガラスであるスマルトやエジプト・ブルーもある。ヴェラスケスは「鏡のヴィーナス」でスマルトとアズライトを使ったそうだし(ゲッテンス REF)、ブリューゲルは, アントワープの「フリート」でスマルトを使っていた
 
 19世紀以降になると、人工青色顔料がどんどんでてくることになる。なかでもベストセラーになったのがプルシャンブルー、ベルリン青である。ペルシャンじゃなくてプロシアである。プロシアは、フリードリッヒ大王を出してドイツ統一の中核になった東北部の国の名前である。ベルリンを首都としたからベルリン青なんですね。日本にも輸入され、北斎、広重の版画にも使われた。
REf ラザフォード・J. ゲッテンス, ジョージ・L. スタウト,  絵画材料事典 ,  翻訳 森田恒之,  美術出版社, 1999
タグ:青色顔料
posted by 山科玲児 at 08:11| Comment(0) | 日記