2022年04月15日

メロード祭壇画 研究史

Brussel Anunciation.jpg


Choices and Intentions in the Mérode Altarpiece - Journal of Historians of Netherlandish Art
https://jhna.org/articles/choices-and-intentions-merode-altarpiece/



この論文には最初に、メロード祭壇画についての、研究史が書いてあるのだが、少しぬけてるかもと思うところもあるが、非常におもしろかった。
 ぬけてるかも、と思ったのは、2018年08月15日 フレマール修道院はなかったのか?
http://reijiyamashina.sblo.jp/article/184174000.html
というようなことは書いていないからだ。

メロード祭壇画
https://www.metmuseum.org/ja/art/collection/search/470304

ブリュッセルにある「受胎告知」(イメージ)
https://www.fine-arts-museum.be/fr/la-collection/maitre-de-flemalle-robert-campin-l-annonciation


まず、最初に、「フレマールの画家」という枠を作ったのは19世紀末、ドイツ人がドイツ語で書いた論文だったようだ。

そして、1909年〜1911年ごろに、ベルギーのヒューリン・ド・ローが「フレマールの画家はロベール・カンパンだ」という説をあげた。
しかし、ベルギー人レンデルスがフラマン文化のアイデンティティのイデオロギーから、ロヒール・ファンデア・ワイデンの初期作品という理論にこだわった。


そして、米国に亡命したユダヤ系ドイツ人のパノフスキーは、1953年「Early Nederlandish  Painting」で、メロード祭壇画を重要な絵画として解説した。
この本はヒエロニムス・ボッスを「理解できない」とした、ある意味潔い本だが、パノフスキーの専門である図像学に偏重しているきらいがある。私もあまり好きではない。マックス・フリートレンダー先生のほうが好きである。

1955年、Musper氏が「メロード祭壇画はブラッセルの絵のコピーである」という意見をドイツの美術骨董雑誌Weltkunst https://www.weltkunst.de/ のインタビューで語った。
ところがインタビューし記事を書いたジャーナリストD氏はムッソリーニとヒットラーの伝記を書き、反ユダヤ主義の著作もあるというバリバリのナチだったのだ。これで、完全に無視されてしまった。
実はこのMusper氏。昔は日本のたいていの図書館に並んでいた美術出版社の「世界の巨匠シリーズ」ハードカバー本の「デューラー」の著者だった。この本は英語(Thames and Hudson(英), Abrams(米)) フランス語にも翻訳され、概説書として歓迎された本であったからこそ、このシリーズに入ったのだろう(書誌はref.)。ドイツ人で初期ネーデルランド絵画の研究をしてる人にはデューラーに関する著作がある人が多いようだ。

1956年、ロックフェラーの資金援助で、メトロポリタンがメロード祭壇画を購入したとき、メトロポリタンの学芸員テオドール・ルソーは、べた褒めのエッセイを書いた。それは立場上あたりまえだが、詳細な図像解釈という意味では業績があった。

一方Musper氏も1968年「ファンアイクからボッスまで」という著作を公刊し、そこで「メロード祭壇画の中央画面「受胎告知」は、ブリュッセルにある『受胎告知』がもとになっているものだ」
としたが、パノフスキーの影響力には到底およばず無視された。

その後、1974年に英国のナショナル・ギャラリーのキャンベルがメロード祭壇画について否定的な見解を述べた。これは、ちょっとどうかと思うような貶しかただったが、ブラッセルの画を注目させることにもなった。
Campbell, Lorne. .“Robert Campin, the Master of Flémalle and the Master of Mérode.” The Burlington Magazine 116 (1974): 634–46.

1996年ごろに年輪年代法でメロード祭壇画の基底材を調べたら、中央画面と翼部で年代が27年ほども違っていた。ゲント祭壇画のような大きなものでは複数の材木を組み合わせるので、なかには50年も前の古材を利用したことも現実にあるようだが、メロード祭壇画のように小さなものではちょっと考えにくい。つまり翼部は同時に描かれたものではなさそうだ、ということがわかりこのへんから再検討が始まったようである。

ref.  世界の巨匠シリーズ     アルブレヒト・デューラー    [Albrecht Dürer画] ; H.T.Musper解説 ; 千足伸行訳 ,美術出版社,
  1969.1
Heinrich Th. Musper ,  Albrecht Dürer,  Kohlhammer,  Erschienen 1952.
posted by 山科玲児 at 08:09| Comment(0) | 日記