2022年07月10日

ボス展のカタログを読む その36 薄い絵の具

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ファンマンデルの列伝での
ヒエロニムス・ボス記述は、
「快楽の園」を中心とする現在のボス イメージからは、少しずれている感じがある。しかし、読み返すと、なかなか面白いところもある。
当方は、スナイダーのヒエロニムス・ボス文献集という 英訳で読んでいた。このファンマンデル列伝の日本語訳もでているようであるが、豪華大型本であり、一部の図書館にしかないのは残念だ。ヴァザーリの列伝もそうだが、こういう文献は詳細な注釈・研究書以外に、テキストだけの翻訳本を文庫本などで提供して欲しい。もっとも、最近の文庫では「老子」や「荘子」を巨大な詳注本にしてしまった例もあるので「文庫本」の性格もぶれているようである。

ファンマンデルの記述のなかで、ボスは、「透明絵の具を薄く彩色し、下書き素描の線も活かす技法を使った」と書いてある。絵の具の節約と、速く乾燥するので納期が早くなる。


 この技法が、ボスの現存作品で明らかにみえるのは、いわゆる放浪者祭壇画の一連の作品である。
「放浪者」ボイマンス、「愚者の船」ルーブル、「貪欲 の死」ワシントンナショナル・ギャラリー、「快楽と大食いの寓意」エール大学
にバラバラになっているが、同じ木材でありセットであることは間違いない。

現在、赤外線レフレクトグラフィーで下絵素描を観て議論するのが流行しているが、この種の絵画では下絵素描が肉眼でみえてしまっている。むしろその下絵素描の線を利用して画面を作っている。昔の粗悪な図版では気がつかなかったが、そのように指摘されて再度みなおすと確かにそうだ。これらの下書きはハッチングがめだつもので、銅版画用素描の線のような感じがするものだ。「快楽の園」や「三賢王の礼拝」の筆で描いたような粗い下書きとは全く違う。ペンを使っているのかもしれない。この点ではボスの絵画を下書きの流儀によって2つに分類できるのだが、一方が本物で一方が模写とはいえないと思う。

同様な薄い油彩層を使った技法の絵画に
アルブレヒト・デューラーの
「博士たちの中の少年イエス」(ACE1506, 65x80cm)ティッセン・ポルミセッサ美術館、マドリード
がある。
  これは、1506年は銘文で入っているので、制作地制作年も確かであるが、この技法がボスからどういうルートでデューラーに伝わったのかよく分からない。あるいは、共通の源泉があり、ボスの発明ではないのかもしれない。

posted by 山科玲児 at 11:04| Comment(0) | 日記