昨日紹介した「葡萄」2点の他の作品にも眼をむけてみる。
とくに特色と個性を感じるのは、むしろこの トマース・イエペス《ブドウの樹のある風景》1645年頃 ではなかろうか?
遠近法・形・季節感ともに奇妙な矛盾があり、20世紀のサルヴァドール=ダリの絵画を思わせるところがある。左下のカタツムリにはなんともいえないユーモアを感じる。そういうところもダリっぽい。
一方、リアリズムという点では「葡萄」のような凄みはないが、アントニオ=ポンセの「ザクロ」が上手い。ただ、ザクロの表面の肌合い光沢は良いが、割ったザクロの赤い実の表現という点では今ひとつな気がする。ただ、スペインのザクロそのものをみたことがないので、こういうものなのかもしれない。
ここで、はっと気がついたのだが、昨日激賞した「葡萄」2点も、この「ザクロ」も上であげたイエペスも、
全て 2006年にRosendo Naseiroコレクションをプラドが購入したものなのである。その意味では、プラドに古くからあったものではない。Rosendo Naseiroというのはキューバ系の実業家らしい。しかし、なかなか眼が良いと思うし、2006年というのはスペインがまだ不動産バブルだったころだから資金もあったのは幸運だった。
最初に飾られた
フェリペ・ラミーレス《食用アザミ、シャコ、ブドウ、アイリスのある静物》 1628年 は、
プラドにある有名なフアン・サンチェス・コタン『食用アザミのある静物 Bodegón del cardo 』(1602年)

とあまりにもよく似ている。
模写を多少アレンジしたものではないか?と思うくらいである。結構うまいので、もしコタンの作品だといわれたら納得してしまうだろう。逆の意味で教育的な作品である。
カタログやチラシに使われたフアン・デ・アレリャーノ《花籠》1670年頃だが、かなり騒々しい感じもする。籠の中にも茎や葉ではなく花がいっぱい入っているというのは、日本人にはもったいなく感じるところである。
筆使いの技法をみると、印象としては、下にあげるオランダ ハーグのマウリッツハイスでみた壮麗なアールストWillem van Aelst (1627 - after 1683)の作品(これはオランダ王室に制作当初から伝わっているものらしい)を思わせた。