内藤湖南は、「応仁の乱 以前の日本は外国のようにみえる」といっておりました.
しかし、平安時代の同時代生活史資料は少なく、実態をつかむのは難しいように思えます。
料理書も一番古いので16世紀ぐらいだし。
そうはいっても、内藤湖南の時代と比較すると、現代では様々な絵画資料がカラーで利用できるようになり、平安時代の日常生活を垣間見ることのできる窓も少しは開いてきました。
上のイメージは扇面法華経の下絵です。この扇面法華経は、扇形の紙に下絵を描いてその上に法華経の経文を書いているのですが、下絵は法華経とは何の関係もなく、風俗画です。それも、十二単衣や衣冠束帯のステロタイプの平安貴族スタイルだけではなく、こういう日常的な下働きや商人や洗濯女や子供などの姿がところどころにみえているのが貴重です。上にあげた四天王寺所蔵のほうが面白い絵が多いのですが、東京国立博物館のほうが公開しているので、サイトを紹介しておきましょう。
http://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0008706 なんか赤っぽい写真ですが、、
信貴山縁起絵巻や伴大納言絵詞などにも、そういう庶民的日常生活の描写はないことはないのですが、この扇面法華経のほうが、より愛らしく日常的な感じがします。ACE1150 前後ぐらいの制作と推定されています。
扇面法華経は、文化財としてのカテゴリーが微妙で絵画なのか写経なのか、中途半端なところにあるので、一般の日本美術全集などでは扱いに困って、あまりとりあげられないことが多いようです。そういう縄張り争い。カテゴリー分け執着などという観念論ではなく、素直に現物の価値をみてみたいと思います。