慎んで御冥福を祈ります。
それにしても、時事通信の記者は敬語の使い方も知らない無知蒙昧の輩だ。
それはともかく、殿下は、歴史学者というより、古代オリエント学者、としての功績が大きい。
上イメージの、「古代オリエント集」(1978年)は、670p以上もあるとても厚い本で、二段組(最下段に注釈があるから、三段組ともいえるかな)で細字がびっしり詰まった古代オリエント文学の大集成である。現在に至るまでこのような本はない。現在、ちくま学芸文庫で、シュメール、エジプトなどに分割して文庫版で出版されているようだが、全部刊行されているわけではなく、シュメールとエジプト部分だけらしい。笑いのあるクマルビ神話を含むヒッタイトとかはまだかな。
「ギルガメッシュ叙事詩」「エヌマ エリシュ(創造神話)」「ケレト伝説」、古代エジプトの数々の教訓書、「ピラミッド テキスト」「アメン ラー賛歌」「アテン賛歌」、ロシア革命のあとの貴族が書いたのではないかという印象さえうける「イプエルの訓戒」などが、原文直訳に近い形で現代日本語に翻訳されている。欠けた文字までここは欠けているというように表示されていて「なにこれ?学術書ですか?」という感じの翻訳文である。ガスターの「世界最古の物語」のような翻案ではない。その分 古拙で現代感覚からかけ離れていて読みにくいわけで、商業的に成功したとは、とても思えない。 しかしながら、古代オリエント世界をのぞこうとする者には必須のアンチョコ本である。学者たちだって、どうせこれを読んでいるのに決まっている。直接ヒエログリフや楔形文字文献を読んでいるような顔をしているお歴々だって、始めはこれですよ。絶対ね。 あるいは、本棚の奧に隠したりしてるかもしれない。
この本は三笠宮殿下が全部翻訳したわけではなく、単に関与しただけである。末尾に長い学術的なエッセイ・論文「旧約関係諸書について」が収録されてはいる(これはえらく固い論文だ)。 しかしながら、このような出版は、三笠宮殿下の関与がなければ出来なかったのではないか。筑摩書房にしても、こんな売れそうもない分厚い本を全集にいれるなんて経営的には嫌だっただろうと思う。 皇室関係や有名人関係の出版では商業ベースを無視した豪華出版が可能なのである。そういう例は、枚挙にいとまが無いが単発のものなら、「饅頭本」のようなもので死蔵され消滅するだけだ。しかし、これは筑摩書房の世界文学大系の1つだったから、多くの公共図書館に収蔵されて普通の学生が接することができる本になっている。
古書価格の高さは、未だに重要文献であるということを示している。
この本一冊の出版に関与しただけでも、日本の学問・文化に大きな貢献をした殿下だと考えている。