2017年01月03日

高橋誠一郎「浮世絵二百五十年」


  昨年末、昭和13年限定500部 高橋誠一郎先生の「浮世絵二百五十年」を買いました(イメージ 上/左)。
  実は、この著者、高橋誠一郎氏のコレクションは、昔、1993年、東京新宿の今は亡き三越美術館で
大展覧があったとき観賞し、私は初めて浮世絵の良さを知りました。そのときのカタログが、イメージ 下/右です。その前に東京国立博物館や、これも今は亡きリッカー美術館(後継は平木浮世絵美術館という法人)、板橋区のコレクションなどは観ていたんですが、浮世絵版画についてはなんら感銘したことはなかったんですね。肉筆浮世絵については今でもよくわかりません。

 高橋誠一郎コレクションは、今は慶応大学に帰していて、サイトでみることができるようです。
     http://project.lib.keio.ac.jp/dg_kul/ukiyoe_about.html
     http://project.lib.keio.ac.jp/dg_kul/ukiyoe_hist_tbl.php
     http://project.lib.keio.ac.jp/dg_kul/ukiyoe_artist_tbl.php
近年では、2009年に、三井記念美術館 で展覧されたようですね。
会期2009年9月19日(土)〜11月23日(月)

  なぜ、高橋誠一郎コレクション展で感銘したかというと、その紙と刷りの感じというか、「物としての浮世絵」「物質的な質の良さの差」がわかったということです。広重や北斎の版画は、構想・図像・図案・デザインとしてはとても優れているのですが、その「物としての質、刷りと紙と線の技術」としては、春信や歌麿のほうが、はるかに豪華で優れています。それは、実物みないとなかなかわからないものなんですね。逆に言えば、本のカラー印刷図版で観てる分には、なんら差はないわけです。 そういう意味で「富嶽三十六景」や「東海道五十三次」については、カラー印刷複製で観賞していいんじゃないかな?と思います。その点では複製芸術の本道をいっているといえるでしょう。
  一方、春信の「座敷八景」は実物をみないと良さはわからんでしょう。歌麿の女の髪の手の切れるような刷りの感じを感得することもできないでしょう。ヒエロニムス=ボスの友人であったアラールト=ハーメルの版画をみたときにその銀のような肌合いに魅了されたものですが、複製芸術とはいえ、そういう唯一性・物質的な魅力もあるのです。
   ただ、高橋誠一郎さんは、広重の「東海道五十三次」については相当入れ込んでいて、十種類も揃いをもっていたようですね。芸術新潮. 1974年8月号に非常に細かい話を書いています(REF1)。
    この本、「浮世絵二百五十年」は画集としては、もはや大した価値はありません。ひとえに文章だけが重要です。ちょっと現在では到底かけないような内部情報、当時の浮世絵取引のありさまが書いてあって、現在でも充分に読ませる古典です。しかし、当時でも浮世絵って高かったんだな。春信の傑作なら「一枚1000円、2000円を投じなければ」であり、現在の貨幣価値にして300万円、600万円以上です。歌麿の極上の雲母刷りなら3000円以上ということです。昭和8年12月のビゲロー遺愛品の売り立てで肉筆浮世絵の鳥文齋栄之の三幅対が2万100円(6000万円以上)とか、ありえるのかな。実は、あの「春峯庵事件」も同時代で体験していて生々しい体験談が書いてあります(実名は伏せてありますが、当時は生きてる人が多かったからでしょう。実名知りたい人はREF2)。また、鏑木清方画伯など、歌川派の末流で学び、戦前の美人画を牽引した人々の体験談などもあって面白かった。なんでも当時は、浮世絵師たちのことは何も伝承がなく、歌麿はかろうじて名前を知っているだけ、清長や春信は完全に忘却されていたそうです。一応北斎は北斎漫画などの刊行手本によって知られていたようです。
  こういう本は、文庫にして刊行して欲しいな。図版は全部モノクロ縮小でいい。どれをみているのかかろうじてわかればそれでいいと思います。慶応のURLを示して所蔵番号と対応させるとか、なんならCDを付属させて図版をいれたっていいじゃないかな浮世絵二百五十年」自体が、わりと稀覯本で、「新修 浮世絵二百五十年」という増補改訂版らしいものが昭和39年に出たのですが、それもまた稀覯本になってしまいました。
 テキスト・文章だけが貴重なのだから、その分だけでもコンパクトにして刊行して欲しいものです。

  高橋誠一郎氏は、著名な経済学者であり、文部大臣など多くの要職を歴任したかたです。高橋誠一郎「わたしの見た最晩年の福沢諭吉先生」というものもあり、福沢諭吉の書庫に入り浸ったという書生的な生活で、福沢の謦咳に接した人でもあります。 
慶応のサイトに略伝があります。
http://bdke.econ.keio.ac.jp/psninfo.php?sPsnID=21
  なんか軽薄な印象のある経済学者、田中秀臣氏も高橋誠一郎教授の謦咳に接したらしく、ブログにも浮世絵のことを書いてます。
   高橋誠一郎の好きな浮世絵 - Economics Lovers Live
     http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090925/p3
なんかこの感想は好きになれないなあ。田中秀臣氏や日下公人氏は、話す態度が嫌なので仮に正しいことを言っていても嫌いですね。その分損してるんじゃないのかな。

REF1 高橋誠一郎、初代広重の「東海道五十三次」、芸術新潮. 1974年8月号
REF2 白崎秀雄、真贋、講談社

posted by 山科玲児 at 08:43| Comment(0) | 2017年日記
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