2018年12月27日

五馬図巻の出現

五馬図巻 t (1).jpg  五馬図巻コロタイプ.jpg

日米戦争中に焼失したと思われていた、70年間以上ほとんどだれも観たことが無かった五馬図巻が出現・公開される。生きていれば、驚くようなことに遭遇するものだ、と思う。 昔、某教授に行方を尋ねたときも、「実物を観た人で生きてる人は私ぐらいかもしれない」というような話だった。
2013年ごろの論文でも「幻」「行方不明」ということになっている。

黄山谷跋、李公麟筆「五馬図巻」の伝来について : 北宋士大夫間における享受から清朝内府流出と日本流入までhttp://jairo.nii.ac.jp/0069/00036283


特別展「顔真卿―王羲之を超えた名筆」の出品リストに東京国立博物館所蔵ということでのっていて、多少驚いたが、イヤイヤ、つまらない模写本かもしれない、関係者に問い合わせないと、と疑い深くサイトをみていたら、

【公式】特別展「顔真卿―王羲之を超えた名筆」
の「みどころ」のところに部分的ながらもカラーイメージがあり、、どうも本物らしい、、となって
思わず赤ワインTISDALE  ピノ・ノワール(カリフォルニア)を1本空にしてしまった(もっと良いワインがあったならそれになっただろうが、手近なものになった。)。
一夜明けて、これを書いているのだが未だに信じがたい。

戦前の写真とイメージで部分拡大で比較対照した。少なくとも印の位置や線描は一致している。ただ、こういうとこまで忠実に模写して偽物をつくって売った偽物作りが戦前いて、フリーアの秀野軒図巻は、その傑作だそうだから、疑えばきりがない。

この五馬図巻の古い精密なモノクロ写真 巻子本の全体は、ほぼ4年前2015年1月7日に紹介した

この特別展サイトのカラーイメージは、世界最初のカラー写真かもしれない。

どうも 墨だけでなく、多少、淡彩も併用してるようなのにも驚いた。冒頭の胡人の顔、馬の馬具が「赤」なのである。もっとも、ボストンの「帝王図巻」の例もあるから、20世紀初期の加筆保彩という可能性もある。

この五馬図巻は、李公麟の唯一の真蹟と呼ばれてきたものだが、70年近く行方不明だったものだ。ここ20年の東京国立博物館の新収品としてはベストのものだと、考えられる。現在、中国絵画が高騰しているのだから、X億円ぐらいは購入価格として出したのではなかろうか? 本物だとしたら、東京国立博物館にある北宋時代の有名人の絵画としては唯一のものになると思う。無名人のものはあるかもしれないが、有名人の有名作としては唯一だろう。


  中国絵画の専門家がほとんど引退・物故してしまったせいか、この重大事件をだれも騒がないのは、まったく不思議なことだと思う。今回の特別展では、台北故宮からのレンタルもあるので、今回、台北故宮関係者も来日するだろうから、台北での雑誌や故宮文物月刊あたりに特集がでるかもしれない。


posted by 山科玲児 at 05:54| Comment(9) | 2018年日記
この記事へのコメント
今日見て参りました。私も発表に震撼した一人ですが、その後の反響の無さにも驚きますね。いくら中国の書画への日本人の関心が薄れていると言っても…(確かに会場の半分位中国人の印象でしたが)。
そういえば昨年の蘇軾の木石図の時もかなり秘密主義的な出品者でしたが、もしかすると同じ人あたりが持っていたのかとも思いました。会場で「これが五馬図巻か!」というような反応を示している人が誰もいなかったのは仕方ないとしても、図録にも長い間所在不明であったことが一言も触れられていないのは不自然な気がします。旧蔵者の指示でしょうか。いずれにせよ寄贈でもなく文化庁予算でもなく、東博の数億円の予算で購入できたのなら勲章あげても良い位ですが…

作品は素晴らしいです。第5図が模本かとも言われますが(鈴木敬先生の本でも第5図がという話でしたっけ?図版で見た時は納得した覚えがありますが…)実見すると第5図が劣っているとは全く思えません。むしろ一番違和感があるのは片肌脱いだ馬丁の第3図ですが、5図それぞれ微妙に線質が異なり判断は難しいです。

とにかく名品揃いで疲労困憊(五馬の前後は伏波神祠、李太白憶旧遊、草書四帖などですが、それがどうでも良く感じる位、空海なんかはスルーしました)、五馬図巻はそのうち東洋館で展示された時に又見りゃいいかと思って帰ってきました。
Posted by ei at 2019年01月17日 18:02
ei  様

貴重なコメントありがとうございました。
五馬図が第五図も含めて優れていたときき喜んでおります。
実のところ、ひょっとしたら、譚敬 工房の模写本か?という疑念を5%ぐらいはもっていました。
 木石図巻は、ほとんど評価しておりませんでしたので、どうでもよい投資家のアイテム 金融商品の一種としかみなしておりませんでした。しかし、五馬図巻は本気で対峙するに足るものだと思っております。

  故宮文物月刊の目次をみたんですがまだないようです。故宮の書画処の人にしても、この大物では文章にまとめるのに多少日時が要るのではなかろうか?とも思いました。いくつかの中文の新聞記事はあったようです。
 酷い風邪がまだ完治していないので、動きにくいのですがなんとか観たいものですね。
Posted by 山科玲児 at 2019年01月18日 06:51
来月板倉先生の解説で豪華本が出るようなので、故宮側もその前に触れるのは遠慮したのかも知れませんね。あるいはその本に台湾や大陸の研究者の論文も載るのかも知れません。

お風邪とのこと、大事に至りませんようご自愛下さい。
Posted by ei at 2019年01月18日 18:46
大した知識も無い素人ですが、今日朝一から足を運んで先ほど帰還しました
「『五馬図巻』ってこんな来場者のリアクションのうっすい展示物でいいのか?」と思いこのサイトにたどり着いた次第です。恥ずかしながら「長年所在不明」であったことすら知らず、以前にチラッと見たことがあるのはNHKの『故宮』でだったかなという記憶もあやふやな物であると教えてもらいました
展示場所にはそれなりの人だかりができてましたが、今回数少ない絵入りの品であったことがその理由っぽいと感じられました
先の方もおっしゃられてましたが、作品の素晴らしさは自分も同意見です。朱や青(?)での柔らかな彩色や細かく描きこまれた馬の肌の模様、傍書きの説明分どおりの馬の体格の差の描き分け等、しばらく目が離せませんでした
個人的には、馬丁の装束の差異が興味深かったです。まさに眼福
あと「来てよかった」と思えたのは、実際に書き文字として使用された則天文字と、『世説新語(話)』の写本の展示で、晋武帝と衛灌との「あの」やりとりの部分が見られたことですかね
では、お早い快復を願いまして、この辺で
Posted by おうどん at 2019年01月23日 17:06


>おうどんさん

コメントありがとうございました。

  なにせ、実物観た人が、ほとんどいなかったのですから、評価ができない状態だったろうと思います。 また、他のあやしい「李公リン」画をもちまわった人達としては出てほしくは無かったかもしれませんねえ。

とにかく良質の作品のようでなによりでした。
咳がなだおさえこめていないのが残念なところです。

Posted by 山科玲児 at 2019年01月23日 18:47
お早い返信ありがとうございます
自分は歴史の「エピソード」からこの世界に入ったクチですので、「どう書いたか」ではなくて、
「何を「つずった」か」で自分に会う会わないが基点になってしまいます
そういった意味からは、今回のメインの展示はまさに「ド」ストライクです
煮えくり返る腸を押さえつつも形式にのっとった書き出しに、その全てが詰まっていると思います
そういった言いでは、実際に連絡がなされなかったとしても、張巡の名前が無かったのが残念といえば残念です
しかし、平日だってのにこの人出はどうだ、まったく
(自分のことは棚の上にほおおりっぱなっしで)
Posted by おうどん at 2019年01月23日 22:10
>おうどんさん

まあ、台北の祭姪は、悪口いう人は一人もいない名蹟ですから、ある意味気楽に推薦できます。

今回の展示については、タグ
顔真卿 王羲之を超えた名筆
五馬図巻
東京国立博物館
書道博物館
で、過去にみた経験からコメントさせていただいてます。香港からも、というのが気をそそるところですね。
Posted by 山科玲児 at 2019年01月24日 05:40
度々すいません。
嘘書いてしまったので訂正させていただきます。

2回目見に行ったところ、やはり第5図は模本でした。興奮と老眼で見誤ってしまったようです(泣)。

馬に向かう手綱は酷くぎこちないです。袖のドレープもいかにも観念的なものです。第1〜4図の出来や線質の振幅もかなり大きいので、前見た時は第5図もその中に収まるかと思いましたが、やはりその間には明らかな軒輊があるようです。

中でも細線であたりを付けて慎重に描かれたように見える第1図の馬は、非常に初発性が高く繊細に感じられ、これが李公麟の馬だと言われればそうでしょうと答える他ない感じです。人物も良いです。第2〜4図の馬は一息に手慣れた感覚で形を取っておりやや落ちる感じですが、山谷筆だという各図の題記まで含めて疑う勇気はありません。毛足の長さの差などを線質の違いで表そうとしたのではという人もいるかと思いますが、どうでしょうか。第5図はさらに落ちます。
紙質も図録で見ると第5図がかなりヤケが薄く写っていますが、展示の照明下で見ると言われなければ気付くのは難しいかも知れません。

それでも第5図も稚拙な模本ではないです。元ぐらいまでに補作されたものなら納得できますが、清初に新たに作られたものだとしたら驚きです(どうしても明末清初の倣古山水などのイメージがあるので…参考にできる確かな真作があれば上手く真似る技術はどの時代の画家にもあるということでしょうか)。

まだ何とか混雑なしに見られる感じですが、監視のおばさんが左から右に見るよう誘導するのには参りました。おしりから見るのは変だから右から見るように誘導してもらえませんか、とやんわり抗議したら、皆さんこちらから並ばれるので、という答えでした。
Posted by ei at 2019年01月24日 21:13

>eiさん

コメント  ありがとうございました。

やはり、重要な展覧会は二度行くほうがよいと、実感させていただきありがとうございました。

海外のものでも、プラドのボス展などは三度いって良かったと思っています。
Posted by 山科玲児 at 2019年01月26日 06:43
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