2019年03月02日

サラチェーニの下宿人

Saraceni Peter.jpg

 去年(2018年)の5月22日にニューヨーク  サザビーズ  オークションに、面白い絵画がでていた。

サラチェーニの下宿人Pensionante del Saraceniとアトリビュートされている「聖ペテロの否定」である
http://www.sothebys.com/en/auctions/ecatalogue/lot.66.html/2018/master-paintings-n09875

  これについている解説が、なんというか美術史の本より詳しい。ボッテチェルリとか ヒエロニムス=ボッスみたいな有名画家ではない、本名もわからないような画家の場合はもともと本もないし、展覧会の図録の記述も短く不正確である、一方、オークションの場合は高く売らないと、という意図があるので、知識を総動員して書いてある。従って、こういう画家の場合は、専門書より詳しくなることがある。

キャンバス油彩で、 101.3 by 119.4 cm. だそうだから、ほぼ1m四方である。

なんで、こんな画家 こんな絵に興味があるのかというと、1993年に「そごう美術館」で開かれた「アイルランド国立美術館名品展」でサラチェーニ?の「聖ペテロの否定」(イメージ)を観たからである。まるで、ジョルジュ ド ラトゥールを思わせるような佳作で、記憶に残っている。これは、ほぼ同じ絵であるが、多少横長です。サザビーズのものは正方形ですから、サザビーズのほうは右側がかなり切られているのかもしれない。

     サラチェーニの下宿人  聖ペテロの否定、  アイルランド国立美術館、ダブリン

  実は、この絵は同じ絵がかなりあるそうで、ヴァチカンにもあるし、フランス北部のDouaiのシャルトリューズ美術館にもあります。
一応最初ロンギが基準作としてあげて、今もたぶん原作だとされてるのがヴァチカンのものです。
   サラチェーニの下宿人  聖ペテロの否定、ヴァチカン
 ヴァチカンのものはサザビーズのほうに似て右側が切れてます。
 このサザビーズのものは、どうも1948年には南米ペルーのリマの人がもってたみたいですね。その後、オークションなどを経て、去年またオークションにでてきたということのようです。
   187,500 USドルですから2000万円ぐらい。
   価格が妥当なのか、、これは実物みないとわからないところですね。

  この、サラチェーニの下宿人という画家を提唱分類したのは、カラヴァッジョをもちあげたイタリアの美術史学者 ロベルト・ロンギRoberto Longhiだそうです。 1939年に提唱、1943年に刊行発表したようです。間隔があいているのは戦争の影響でしょうね。ロンギが基準作にしたのは、
Category:Pensionante Del Saraceni
https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Pensionante_Del_Saraceni
にある、果物屋(デトロイト)、鶏屋(プラド)、聖ペテロの否定(ヴァチカン)、と
魚屋 Pensionante del Saraceni Galleria Corsini  Firenza (Flicker)
https://www.flickr.com/photos/mauchiz/22803958060

ですけど、これ、まとまったグループなんですかね、果物屋(デトロイト)と聖ペテロの否定 は、同じ女中がでてるからいいでしょうし、Category:Pensionante Del Saraceniにでてる静物画は果物屋(デトロイト)の一部にそっくりですから関係ありそうです。鶏屋はどうつながるのかな? さらに魚屋なんかは、かなり違うんじゃない??

  ただ、聖ペテロの否定 はたくさん模写生産されたのだから、人気があった絵なんでしょう。この聖ペテロの否定、ジョルジュ・ド・ラトゥールに似たところがありますし、イタリア人じゃなくフランス人やオランダ人じゃないかな、という推定があるようです。Jean Leclerc (1587/8-1633)という人がサラチェーニの弟子だったという記録があるようでかなり可能性が高いようです。ラトゥールとイタリア・カラヴァッジョを結ぶ人かもしれないなあ。。
 候補者としては、他にGuy Francois (c.1578-1650),   リエージュからきたFrancois Walschartz (1597/8-1678/9)もいるそうです。

  そうすると、イタリア絵画かどうかさえ怪しいというか、わからないんですね。フランス絵画なのかな、そういうとローマで制作したプッサンやクロード・ロランの作品はイタリア絵画なのかフランス絵画なのか??  普通はフランス絵画として扱っているようです。


posted by 山科玲児 at 07:16| Comment(0) | 日記
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