
印刷本への手書き装飾 その3 マキシミリアン皇帝の祈祷書
で、この本は、羊皮紙へ印刷したものだということを書いた。15世紀後半の印刷本には、こういう豪華本が少なくなかったようである。何百枚もの羊皮紙を集めるというのは、当時といえども財力と権力の象徴だっただろう。現在は羊皮紙の生産自体が絶滅危惧状態になっているせいか、画材としてのA3ぐらいの羊皮紙が1枚何千円もするようだ。15世紀なら、生産は多かっただろうから、価格はより安かっただろうが、やはり紙より高い資材だっただろう。
それにしても、羊皮紙に「印刷」するとは!!。1455年2月23日に開始されたグーテンベルク聖書もまた、最初は、羊皮紙に45部印刷されたといわれる。これからして、もともとグーテンベルグの印刷術は書物の普及や大量生産をめざしたものではないということがわかる。昔、グーテンベルグ聖書の複製本を東京渋谷の本屋店頭のウインドウでみたことがあるが、それは巨大で豪華なものだった。むしろ他でみた15世紀当時の普通の写本より豪華な感じがしたものだ。当時の印刷本は、現在のファクシミリ本に近いスタンスで、超豪華な「書籍」を複製するというような発想で制作されていたのではなかろうか。勿論、その後、この技術はより粗悪で安価な本やパンフレットを制作するために使われるようになったが、当初の意図とは違う「悪用」「派生」だったのではないか、と考えているところである。
アンドリュー・ラングのThe Library 1881 手漉き紙本(イメージ)では、愛書家がコレクションにいれるべき本を紹介するのにあたり、羊皮紙印刷本をあげている。ラングが孫引きしたM. Van Praetという人の羊皮紙印刷本カタログは2000点を数えているというから、相当作られたものらしい。 昔、最初にここを読んだときどうもピンとこなかったものだ。羊皮紙に印刷して本をつくるなんて? 想像もつかない。羊皮紙に手で書いて写本にするというのなら、まだ想像できるのだが、印刷なんて。。
現在では羊皮紙 ヴェラムを本の装幀に使うことは、ままあるようだが、羊皮紙本を新たに作るという試みは、あまりないだろう。
現代の羊皮紙本というと、遠い記憶にある「本」がある。現在でもネット検索でフランス語記述はあるようだ。1958-1961年にJoseph Foret(1901-1991)が企画してフランスで作られた巨大な「黙示録」である。
出口氏の紹介文があった。。
重さ210kg、大判羊皮紙150枚を使い、黙示録だけでなく、挿絵・デザインにダリ、ザッキン、藤田、マチュウ、レオノール・フィニ、テレモワ、が参加、注釈・エッセイにはコクトー、シオラン、ジオノなどが参加したプロジェクトでこの「本」は世界中を回って展示され400万人が観たという。表紙デザインがダリ制作の奇怪なものなので「ダリの黙示録」と呼ばれることもあるようだ。私は、、現在どこにあるのかも知らない。ただ、この世界一高価で大きな本、では専門のカリグラファー(書家)シェリーヌ・ニコラによる書写が主で、一部印刷を併用したもののようだ。