2019年10月01日 泰山刻石29字本で
2018年のパリのサザビーズで、泰山刻石29字本が約2億円以上で落札されたことを書いた
Fine Chinese paintings, calligraphy and rubbings from a German private collection
12 June 2018 | 10:45 AM CEST | Paris
No.18 LOT SOLD. 1,929,000 EUR
http://www.sothebys.com/en/auctions/ecatalogue/2018/collection-arts-dasie-pf1827/lot.18.html
これに刺激されて、他の29字本の写真をいろいろ漁っていたら、大変なことに気がついた。
往年の書道史学生のバイブルであった、平凡社 書道全集1 殷周秦 に出ている29字本拓本が実は偽物・翻刻くさいのだ。
しかも、その解説には、故人の大学者が、
平凡社 書道全集1 殷周秦 の解説
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今日原石の拓本としては、われわれは29字の拓本をもってまんぞくせねばならないのであって、ここに掲げたのは楊守敬の旧蔵にかかる精拓本である。もっとも泰山刻石の拓本として、宋の劉キの模トウしたという本など、その他23の本が存するが、必ずしも信用できない。29字本でも、その原石を明代の偽造とする学者があるが、これは懐疑に過ぎはしまいかと思う。なお
泰山刻石の古拓本として、宋の劉キの拓した本とか、明の安國の所蔵していた北宋拓本とかがあって、いずれも文字の存するものが多いので、その模刻本を珍重する学者もあるが、いずれも真偽不明である。
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と、目一杯、53字本、165字本を否定する論陣をはっている。
あああ、
そりゃ、翻刻拓本を本物と思って基準にしたら、当然そうなるわな。しかも書道全集1 殷周秦掲載の拓本をよくみると、この大学者の所蔵印が押してあるのである。当方も自分の所蔵拓本を盲信・高評価しがちな傾向を自戒しなければならないと思った。
偽物・翻刻の根拠は、まあ一見した線質・肌合いの印象でもそうなのだが、上のイメージに左から、書道全集本、厳可均題29字本、原石が存在する9字半本の新拓の同一部分をあげておいた。この「臣去」の字を比較すると、「去」の字の下が「ム」でなくて「口」になっているのである。勿論、ここが紙が破けていたり傷ついていてそうみえるという可能性もないではないから決定的ではない。いうまでもないことだが、泰山刻石29字本には何種類も翻刻があって、そのなかには「口」になってしまっているものが、少なくとも2種類はある。そういうものをもとにしてでっちあげた拓本ではなかろうか??? 勿論現存の9字半本にも多少文字をはっきりさせるために加工したのではないか?と疑う部分もある、例えば、今のべた「ム」の右側の線ははっきりし過ぎている。しかし書道全集本はどうなのかねえ。。 また、書道全集本には断裂がないが、観た範囲の拓本写真では全て断裂がある。泰華楼(泰山刻石と西嶽崋山廟碑の拓本をもっていることを誇った名前)と自分の書斎名付けた李文田の所蔵本(北京故宮博物院 剪装本)ですら断裂がある。断裂のないものは1本あるらしいが未見である。こういう点は傍証に過ぎないが怪しむ根拠になる。
平凡社、書道全集〈第1巻〉中国 (1954年)
仰るとおり書道全集の拓本は原刻ではないと思います。彫られていた線が摩滅して拓に出てこなくなった可能性もなくはないため、岱廟訪問時に撮った原石の拡大写真と比較してみましたが、厶の箇所は他の平面と全く同じ高さで、状態も比較的良好であり、摩滅したとは考えられません。臣字もよく見ると違いますし、重刻とみて間違いないでしょう。何の底本を使ってるか分かりますでしょうか。
>何の底本を使ってるか分かりますでしょうか。
コメントありがとうございます。
29字本は当時でも高価なものですから、ゼロから贋作してもひきあったかもしれません。しかし、おそらく、泰廟西の環詠亭にあった(少なくとも1940年まではあった)道光年間の梁章クの翻刻本をいじって細工した可能性があると思っています。
第1巻 殷周秦
図版番号・作品番号 137
です。頁数はふってありません。
なお、旧版書道全集というのもあって、これは戦前に剪装本と洋装本の2種が発売されてますが、こっちではありません。
>拓本さん
。先生がお持ちの本には何ページに載っておられるでしょうか。