2020年01月24日

「読む」と「解る」

人外魔境.JPG


マイケル・D. コウ Michael D. Coe,
監修増田 義郎,  翻訳 武井 摩利, 徳江 佐和子
「マヤ文字解読」
http://www.amazon.co.jp/dp/442220226X/

を読んでいると、結構時間を忘れてしまう。これだけおもしろい本が絶版というのは
残念なことである。

この本の1章や末尾には、ほかの古代文字の解読の話も比較の意味で書いてある。
 古代文字の解読では、
「音がわかる」
「意味がわかる」
 この2つは別のもののようである。例えばエトルリア文字とエトルリア語、エトルリア文字はフェニキア・ギリシャ系のアルファベット文字だから、音はだいたいわかる。ところがエトルリア語自体がほかの言葉と共通性が少ないため、なにが書いてあるのかさっぱりわからない。アルファベットの読み方は知っているが英語を全く知らない人のような立場である。

 これでは、わかりにくいかもしれないので別の例で説明する。 ARS LONGA VITA BREVIS という石に刻んだものがあったとする。それを「アルス  ロンガ  ヴィータ ブレビス」と読めるけれど、ラテン語も英語もフランス語も、なにも知らないので、意味がわからないというような状況である。
ラテン語がエトルリア語の単語を借用したりしているので、部分的にわかる単語はあるらしい。

 ヒッタイト文字の解読は2段階で行われたようだ。まず楔型文字(ヒッタイト文字ではない)でヒッタイト語を書いた粘土板をもとにして、ヒッタイト語を再構成した。これがチェコのフロズニーである。幸いインド・ヨーロッパ語だと発見したことで相当ヒッタイト語がわかるようになった。この時点ではヒッタイト文字はなにも読めていない。読めたのは楔型文字で書いたヒッタイト語である。次にヒッタイト文字で書いたヒッタイト語の文章をよめるようになった。
  そして、最後にカラ・テペで2言語翻訳の長文の銘文が発見された結果、いままでの解読が正しいということがわかったのである。実はそのあと後日談があって、読めた文字資料は、実はヒッタイト語近縁のルウィ語だったようだ。

  小栗虫太郎の「人外魔境」の第3話「天母峰」に、これと関係ありそうな設定がでてくる。全く読めない未知の言語文字のパピルスについて、一人は意味がわかり、一人は音読ができるが意味はわからない、という設定である。意味がわかるほうの学者ケルミッシュがチェコの出身だというところが、フロズニーを思わせるものがある。なお、フロズニーは晩年にあらゆる未解読文字に挑戦したがことごとく失敗し、「大学者が、老衰のためとはいえ、晩年に至って過去の名声をこのような不幸な著書の発表によってけがすのを、かつ驚きかつ嘆いたのであった」とrefにかかれているから、ますますそれっぽい。

REF. 高津・関根、古代文字の解読、岩波書店、1964

posted by 山科玲児 at 09:32| Comment(0) | 日記
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