古い絵の青色顔料には、伝説的顔料がある。それが金より高いといわれる天然ウルトラマリンである。アフガニスタンのバグダシャンで採掘される宝石ラピスラズリ(左イメージが原石 当方撮影)を原料とする。
しかし、よく考えたら重量比で黄金より高いというものは、これに限るわけでもない。宝石でなくても高級な織物、貴重な薬物なんかも高そうである。
その天然ウルトラマリンだが、粉にするのだから、当然宝石にならない部分を使い、不純物をのぞいて作るわけである。そういう鉱石からは数パーセントしか採れないようだ。
高いから、原産地アフガニスタンの壁画なんかはともかく、西欧では、聖母の衣とか、重要部分にしか使わなかったようだ。
当然、もっと安い青色顔料を皆使っていたわけで、それが「岩群青」アズライトである。炭酸銅の一種で銅鉱山に孔雀石(マラカイト)とともに産出する。だからドイツや東欧でも採掘された。当然中国でも産出する。日本も昔は世界指折りの銅輸出国だったのだから当然産出しただろうとは思うが未だ調べていない。実は殷周の青銅器の錆も時にはアズライトになることがある。美しい青の錆はアズライトである。上右イメージは戦国時代末期の鏡の錆のアズライト(当方 撮影)。
ロシア民話の「石の花」にでてくるのが、このマラカイト・アズライトですね。
これも安くはないが、ラピス・ラズリに比べれば、けた違いに安いし、入手しやすい。アズライトを下地にして天然ウルトラマリンを上に少し使うという使い方もあったようだ。
日本画・中国絵画の高級な青い顔料はだいたいこのアズライトである。
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前あげた絵の具やさんのサイトだと、最上級でも15グラムで2200円 天然ウルトラマリンだと8Gで2万円以上だから 20分の1以下である。昔は輸送にもっとコストがかかっただろうからもっと価格差があっただろう。勿論、それ以外にも青色顔料はある。人工的な青色ガラスであるスマルトやエジプト・ブルーもある。ヴェラスケスは「鏡のヴィーナス」でスマルトとアズライトを使ったそうだし(ゲッテンス REF)、ブリューゲルは, アントワープの「フリート」でスマルトを使っていた。
19世紀以降になると、人工青色顔料がどんどんでてくることになる。なかでもベストセラーになったのがプルシャンブルー、ベルリン青である。ペルシャンじゃなくてプロシアである。プロシアは、フリードリッヒ大王を出してドイツ統一の中核になった東北部の国の名前である。ベルリンを首都としたからベルリン青なんですね。日本にも輸入され、北斎、広重の版画にも使われた。
REf ラザフォード・J. ゲッテンス, ジョージ・L. スタウト, 絵画材料事典 , 翻訳 森田恒之, 美術出版社, 1999
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