この絵で聖母子の背後右にいる寄進者は、枢機卿の服装をしている。ニコラ・ロランNicolas Rolin (1376–1462) の息子:ジャン・ロランJean (Jehan) Rolin (1408–1483) である。
ニコラ・ロランという人物は、初期ネーデルランド絵画で、必ず名がでてくる、ブルゴーニュ公国の宰相をつとめた高官で、なにせヤン・ファン・アイクに自分の肖像を聖母子とほぼ同じ大きさで描かせた人である[ロランの聖母(ルーブル)]。また、ブルゴーニュのボーヌにあるロヒール・ファンデア・ワイデンの有名な最後の審判祭壇画の寄進者であり、外翼に、またも自分と妻の肖像を寄進者として描かせている。アラスの肖像素描集にもニコラ・ロランの肖像があるが、これは、ボーヌのものに近いようだ。
さて、このジャン・ロランの寄進者像は聖母と頭の高さがあまりかわらないようにみえる。しかし、実際は低いのだ。これは俯瞰的遠近法で描いているからで、遠いほうが高いところにおかれることになる。例えば、プラド美術館のヒエロニムス・ボス 東方三博士の礼拝:では遠くの軍勢や熊が聖母より高いところにあるが、だからといって、位階や尊貴の序列がひっくりかえっているわけではない。
ただ、初期ネーデルランド絵画では、寄進者像が比較的大きく画面にでる傾向はあるだろう。