2022年10月25日

サリエリとウェーベルン



アントニオ・サリエリ - 「スペインのフォリア」による26の変奏曲|ラインハルト・ゲーベル|WDR交響楽団
https://youtu.be/GbC1wRk20vA
2019年6月14日、ケルンのFunkhaus Wallrafplatzで行われた録音。
アルカンジェロ・コレッリのヴァイオリン変奏曲「ラ・フォリア」作品5第12曲 (ACE1700)をもとにオーケストレーションした曲である。

この曲を聴いて思い出すのは20世紀新ウイーン楽派のアントン・ウェーベルン( 1883年12月3日 - 1945年9月15日)が編曲した「バッハ  音楽の捧げもの 6声のリチェルカーレ」である。
J. S. Bach/A. Webern: Ricercar a 6 ∙ hr-Sinfonieorchester ∙ Antonello Manacorda
https://youtu.be/uSQCclchJIE

どちらも古典である原曲自体は、いじらず、オーケストレーションによって新しい面を出している。サリエリのほうは少し加工や装飾、追加 補筆があるようだが、大部分は原曲を尊重している。19世紀の言語道断なロマン的改変のあるレオナール版の「ラ・フォリア」よりはるかに原曲尊重だ。その意味ではサリエリは、古典派ロマン派をとびこえて、奇しくも同じ「ウイーン」の20世紀作曲家とつながっているのである。 動画でみると、どの楽器使っているか一目瞭然で、トロンボーンとフルートとティンパニを使った変奏は特に面白い。またハープをうまく活用している。水谷彰良氏も「ブラームスの『ハイドンの主題による変奏曲』(1873)以前に書かれた最良の管弦楽変奏曲であり、ヴァラエティに富んだ感覚の瑞々しさにおいて古典派を飛び越えた名曲である」(ref)と絶賛している。

コレッリのこのヴァイオリン変奏曲は、出版後、もっと大きい編成での編曲改作が弟子のジェミニアーニ、ヴェネチアのヴィヴァルディによって行われているが、聴き比べてみると、サリエリのこの曲が一番面白い。

フランチェスコ・ジェミニアーニ:コンチェルト・グロッソ ニ短調 H.143 「ラ・フォリア」|WDR交響楽団
https://youtu.be/ZrljhdUJn0c

A. VIVALDI - La Follia - Compagnia De Violini presso il Venetia Picciola Festival
https://youtu.be/1uJn462eJ94

 ウェーベルンと大バッハを聴き比べているような感慨をもつことのできる佳作である。
 これがサリエリの晩年1815年12月に作曲されたらしいのは、まさに晩年様式というべきものだろうか。コレッリという古典原点にもどり、古典を祖述しながら新しい面を作り出す、コレッリ、タルティーニを受け継ぐイタリア器楽音楽の騎手としての矜持を感じて胸があつくなる。
そういう矜持・伝統への意識は、
タルティーニのコレッリの主題による変奏曲」/ボーイングの技法:50の変奏(Ruggiero Ricci,1918年7月24日 - 2012年8月6日)の演奏
https://youtu.be/1wsU8sWWV5I?list=OLAK5uy_lT9nTcHbAhG7c4ViC78vAKayBU0ZxP_us
にも感じる。
 サリエリの長兄は、タルティーニの弟子だったそうだから、タルティーニの影響もあるだろう。ウイーン音楽院の前身である学校をサリエリが作ったというのは、大きな功績であるが、タルティーニがパドウアにヴァイオリン学校を作ったことに影響されているのかもしれない。

ref.水谷彰良, サリエーリ 生涯と作品 モーツァルトに消された宮廷楽長,
音楽之友社、2019/1/19
posted by 山科玲児 at 06:26| Comment(0) | 日記
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