ふたつの故宮博物院 (新潮選書) 野嶋 剛 (2011/6)
http://www.amazon.co.jp/dp/4106036827
朝日新聞記者らしい誤謬と政治宣伝に満ちた本である。
インタビュー記事や実際に訪問した記事以外は間違いだらけの本なので、台湾での国民党と民進党との政権交代が故宮博物院に関わる部分、中国での愛国的国宝回流のプロパガンタの狂気の記述以外は殆ど参考にならない。インタビューの部分も果たして事実をどれだけ伝えているのか疑問に思う。
著者は、「イラク戦争従軍記」という著書もある人で、博物館・美術館には縁のない人らしく見当外れの記述が多すぎて読むに耐えない。
ほんの2,3をあげてみよう。この10倍以上の間違いがあるが、とても書ききれない。
十六頁に、1980年代末に訪ねたときの印象として「これほど素晴らしい展示品がありながらちゃんと見せようとしないのはなぜなのだろう」「博物館というよりは倉庫、世界の一流博物館ほどには、展示の美観や参観者の利便性は考慮されていなかった」と書いている。
まず北京に言ってください。1990年の北京故宮博物院はそれはひどいものだった。1980年代末の台北故宮博物院は同時代の東京国立博物館よりよく公開していたと思う。著者は東京国立博物館すらろくにみていないのだろう。
まあ、朝日の大先輩本多勝一の「中国の旅」のように相手の話を鵜呑みにしているんだな。例えば、181−182頁に、昭陵六駿について、上海文物研究センターの陳文平が、米国人が盗んだように言っているのをそのまま無批判に書いている。事実は;1915年ごろ、新陜西都督 陸建章(1879-1917)は当時の大総統で帝政を画策していた袁世凱に北京の庭園を飾る彫刻として献上した。袁世凱死後、遺族によってパリとニューヨークに店をもつC.T.Looへ売られた。
「裏をとる」というジャーナリズムの大原則を無視している朝日新聞記者の面目躍如といえるだろう。
2011年07月22日
ふたつの故宮博物院 野嶋 剛
posted by 山科玲児 at 06:23| Comment(2)
| 2011年日記
ありゃ!真相こうですか、それはひどいですね。知らないのですっかり信じ込んでました。
ご教示おおきにさんです。
やはり、本を一冊書くのは大変なんですね。
典拠は、
香港の雑誌、orientations 2001 feb. p 47-50
Emperor Taizong and his six horses,
これは ペンシルバニア大学の中国人が当時の領収書手紙などの書類を元に書いた論文です。