2011年10月09日

李世鐸は3億円で日本人に売った

武田薬品:杏雨書屋にある、李世鐸旧蔵本について、たぶん香港出身の榮新江先生(今は北京にいるようだが)の英語論文があった。香港出身と確信するのは、榮なんて姓は広東香港特有だと思うから。
Rong Xingjung The Lishengduo Collection original or forged manuscripts?

Suzan Whitfield (ed.) Dunhuang Manuscript Forgeries, The British Library Studies in Conservation Science 3, The British Library, 2002 所収 シンポジウム発表原稿

実は、この時点では杏雨書屋にあるとは榮先生は知ってはいない。
この論文によると、李世鐸が売ったのは432点だから、杏雨書屋の約750点の一部でしかない。他の写本は、他から購入したのだろう。
論文で紹介されている李世鐸の目録のなかには、千字文1巻 巻頭完というのもあって、ひょっとしたら貞観本の巻頭部分かと妄想をふくらませたくなるものもある。まあ違うだろうな。敦煌本には結構粗雑な千字文も多いからねえ。目録だけで期待するとがっかりということも多い。

しかし、外国人に80,000日本円で売ったというのは中央時事周報の1935年12月15日と21日に載っていたというから、確実なことだろう。当時は小学校教員初任給が50円、巡査の初任給が45円の時代である(REF. 値段の風俗史 上、朝日文庫、週刊朝日編)。現在なら、3−4億円というところだろうか。天津租界に住んでいる老人の生活費としては充分すぎる気がするが、中国の場合は一族を養うという感じになるからね。李世鐸は1935年に逝去しているので遺族が売ったとも考えられるが、中国著名蔵書家傳略 を読むと、李世鐸は妾から訴えられていて5万金を要求されており、宋版本を質屋において借金したりしていたらしいから、生前から話があったのかもしれない。

当時、日本人が中国の文物を略奪同然の安値で買ったと吹聴する連中がいる。それも、特に老人に多いのは奇怪な感じがする。実際は、現在でもかなり高いと思う価格で、買っていることが多い。現実の取引価格を知らないで、マスコミの煽りにだまされているのだ。マスコミの中の人自体、取引価格など知らないでムードで思い込んでいるのだろう。
タグ:敦煌 李世鐸
posted by 山科玲児 at 09:58| Comment(0) | 2011年日記
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