前嶋信次先生の アラビアンナイトの世界
http://www.amazon.co.jp/dp/4582761135
を長年読んでいる。
この本では、アラビアンナイトの中のいろんな話を紹介して鋭い考察を加えてある。その中に、「海王の娘ジェルラナールと、その子バドル・バーシム王の物語」という多彩な物語がある。バートン版では第3冊に入っている「海から生まれたユルナールとその子のペルシャ王バドル・バーシム」になっているようだ、
この話に、魔法の食べ物で客の男を家畜に変えてしまう「魔女ラープ」というのがでてくる。
その魔法の穀物をつくるのに、宮殿の床に種を蒔いてみるみるうちに収穫し、その穀物を挽いて粉にして、その粉で料理をつくるのだが、食べた男は、ラバや馬などの家畜に変えられてしまうのだ。
これを読んだとき、あ、板橋店三娘子だな。と思ったものだ。客の男が計略によって、逆に魔女を家畜に変えてしまうところもそっくりである。 前嶋先生はオデッセイアのキルケーをあげているが、板橋店三娘子をあげてないのは、惜しいと思った。「板橋三娘子」というのがほんとらしいが、ついそういう名前で憶えていたのだ。
床に種を蒔くということに、子供のころ、この話を「世界の民話集」だかで読んだ私は変に思った。畳の上に蒔くというようなイメージになるからだ。日本人じゃピンとこないかもしれないが、中国や中東の床は、立派な部屋でも土間であることが多いから、結構自然なんだ、と思うようになったのは中国や欧州へ旅行したあとである。やはり経験も大事だね。
ただ、「板橋三娘子」の話は、日本の子供向けの本なんかにも昔のっていたりしたのだが、原典がなになのか結構あやしい。魯迅の説話集成「古小説鈎沈」なんかにものっていなかったしね。いろいろ調べて、散逸して断片しか残っていない唐代伝奇小説集の「河東記」の中に入っていたことまではわかった。「河東記」は散逸したが、この話は北宋初頭に編集された説話集「太平広記」に「河東記」からの採用という形で残っているわけである。
北宋初期というと10世紀(9世紀は誤りでした)だから、アラビアンナイトの最も古い写本断片とほぼ同じ時代である。「河東記」はそれより1,2世紀前だろう。アラビアンナイト自体はその後も補充拡充されて10世紀ごろエジプト カイロで集成されたと推定されているのだから、板橋店三娘子の話はアラビアンナイトからの伝播ではなく、そのもとの話・原形に近い説話がペルシャかインドから、別系統で中国へ伝わったものだと考えるしかない。それにしても、種を家の床に蒔いて一晩で収穫するというのは、インド大魔術にでてきそうな話であり、やはりインド起源なのかもしれないな。このプロットが中国と中東の全く別の方向に伝播して何世紀も枝分かれしながら、これだけ共通に残っていることが凄いと思った。
そういうことを、何年か前、考えていたのだが、このテーマで大きな研究をした人もいるようだ。
まあ、皆、同じようなことを考えるものである。ちょっとやられたという嫉妬もないわけでもないが、 当方はアラビア語やペルシャ語、インドなどを渉猟することはできないので、他の人にやってもらい、もっと他のことを考えることにしよう。
唐代小説「板橋三娘子」考―西と東の変驢変馬譚のなかで
http://www.amazon.co.jp/dp/4862851274
2013年11月03日
板橋三娘子
posted by 山科玲児 at 07:43| Comment(2)
| 2013年日記
この本では、孫ビンの、膝を斬られる話が圧巻でした。鬼谷子もでてきますw